最高裁判所第二小法廷 平成7年(行ツ)211号 判決 1996年12月06日
広島市安佐南区祇園町西山本一〇五-一五
上告人
佐々木久
右訴訟代理人弁護士
大本和則
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被上告人
特許庁長官 荒井寿光
右当事者間の東京高等裁判所平成六年(行ケ)第七五号審決取消請求事件について、同裁判所が平成七年九月一九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人大本和則の上告理由について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、本件考案が進歩性を欠くとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 大西勝也 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)
(平成七年(行ツ)第二一一号 上告人 佐々木久)
上告代理人大本和則の上告理由
原判決は、その事実認定につき、判決に影響を及ぼすこと明らかな採証法則違反、経験則違反の違法がある。
原判決は、要するに本考案がきわめて容易に想到し得るものであって、新規性、進歩性を有するとはいえないとしている。
しかしながら、本考案は、視覚障害者誘導用に開発された視覚障害者誘導用ブロックを利用した触知方式を採用し、そのブロックに杖等が触れるという流れの中で、音声誘導が受けられるようにしている。
一、原判決は、「磁気材料を道路に沿って敷設し、ここから発生する磁気を道路の表面側から磁気センサにより検知し作動するようにした視覚障害者のための誘導装置は、本考案の出願前に公知であると認められるから、磁気材料とこれを検知する磁気センサの設置箇所を入れ替え、磁気センサを道路に沿って敷設(埋め込み)し、道路の表面側を移動する磁気材料からの磁気を検知し作動するようにして視覚障害者を誘導しようとすることは、当業者であればきわめて容易に想到し得ることと認めるのが相当である。」としている。
しかしながら、磁気センサを道路に沿って敷設することになれば、あらゆる箇所に磁気センサを設置しなければ誘導できないことになる。
すなわち、本考案は単に磁気材料とこれを検知する磁気センサの設置箇所を入れ替えるだけのものではないのである。
二、原判決は、さらに、「磁気材料を道路側に敷設する際には点字ブロックに埋め込む方が視覚障害者にとって利用し易いであろうことは、当業者にとって容易に予測し得ることであると認められる。」としている。
しかしながら、点字ブロックに磁気材料を埋め込むことは意味のないことである。点字ブロック自体は触知による誘導機能を有しているのであるから、それに磁気材料を埋め込み誘導帯を作ることは過剰となり、意味がないのである。
三、また、原判決は、「リードスイッチと点字ブロックとを組み合わせた点」についても格別の効果が得られると認められず、「履物の裏または杖の先に磁気センサに代えて磁気材料を埋め込むことは容易に想到し得る」としている。
しかし、本考案のように点字ブロックを利用した場合、杖には磁気センサや小型バイブレーターを必要としないし、磁石を履物や杖に組み込むことによって、スイッチ操作やメンテナンスを不要にしているのである。
四、それに、原判決は、本考案について取消事由について一つ一つを個別に判断をしているだけであって、点字ブロックを利用した本考案におけるその機能、効果を総合的に判断していない。
すなわち、本考案は、誘導路を検知することを目的とするものでなく、点字ブロックにより誘導された点字ブロック内に組み込まれたリードスイッチにより音声装置を作動させるものなのである。
本考案は凹凸のある視覚障害者用誘導路における音声誘導装置の作動を対象にし、点字ブロックとリードスイッチ、更に磁石と杖または履物とを組み合わせるものである。
すなわち、点字ブロックの表面に近い位置にリードスイッチを多く埋め込み、作動範囲を面状に広げ、ブロック自体に防水処理や強度を持たせることで、音声装置を作動させることのできるブロックとして、単体で誘導路へ敷設できるようにし、敷設する点字ブロックの位置や枚数、広さで音声誘導しようとする場所や範囲を任意に設置できるようにしているのである。
このように原判決は、その事実認定及びその判断において明らかに採証法則、経験則に反し、違法である。
以上